「治験」とは~日本では、なかなか根付かない治験
治験とは、「医薬品の製造・販売で国の承認を得るため、成績を集めることを主な目的に行われる臨床試験」を指します。
治験はおおむね、「新薬の有効性と安全性を確認するための、人体によるテスト」と考えておいてよいでしょう。
そして製薬会社・病院・医師が治験を行うためには、「薬事法」と国際的に統一されている治験の基準に沿った厚生労働省規則「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」の、両方を守って行う必要があります。
一般に新薬の開発には、およそ9~17年という膨大な時間、そして莫大な研究開発費が費やされます。
この新薬の発売に至るまでのすべての期間のうち、およそ3~7年程度を臨床試験、すなわち「治験」が占めます。

海外では、この治験の期間や基準が一般に日本ほど厳しくないこともあり、新薬の発売までの期間も日本より短くなっていることから、国際競争上も日本の医薬品メーカーは、新薬の開発・販売でたいへんな苦戦を強いられています。
日本においては、現在世界で使用されている薬全体のわずか2割程度しか認可されていません。
「国民皆保険」の制度をとる日本では、医療を「すでにできあがったシステム」ととらえる国民も多く、薬の意義について深く考えず医師の定める治療法に従うだけでよい、といった風潮が存在します。
そのため、「治験が創薬の必須プロセスであることを理解し、創薬に貢献するボランティアとして参加する」意識が、これまで日本ではなかなか根づいてきませんでした。
これが、治験に対する社会的理解がなかなか進まない理由のひとつといわれています。
治験とジェネリック医薬品
ご存じの通り、現在は「ジェネリック医薬品」が、日本でも注目を集めています。
「ジェネリック医薬品」とは、すでに開発が終わっている特許切れの薬を他のメーカーが製造・販売するもので、開発費が不要なため、薬の販売価格を非常に安く設定することができます。
しかし、これまである薬では対応できないような未知の病気に対処するため、新薬の開発を日本として続けていくことは、国民の生命と財産を守るという点からも非常に大切なことです。
厚生労働省も、平成24年に「治験活性化5ヵ年計画」をつくり、今後は治験をさらに推し進めていく姿勢を表明しています。
ちなみに、薬は特許が切れた段階でジェネリック医薬品の対象となりますが、その成分が先発の医薬品と同等ならば本当に問題が生じないのか?という点について、念のため「確認テスト」を行います。
この確認テストは「生物学的同等性試験」と呼ばれますが、この同等性試験もまた「治験」のひとつとされています。
モニター募集の流れ
治験は四段階のフェーズ(第I相~第IV相)で行われます。
このうち、自由意思にもとづいて志願した健康な成人が対象となるのが「第I相」とされ、通常治験に応募する側が対象として考えるのは、このフェーズになります。
「第Ⅱ相」以降は、患者を対象として行われるフェーズになります。
治験に先だっては、動物を対象とした前臨床試験(非臨床試験)によって、その安全性と有効性が確認されています。
その結果をうけて薬を人に適用する最初のステップとなるわけです。
対象となる薬は極少量からはじめ、検査数値の変化を確認しながら段階的に投与されます。
治験モニターへの参加は、「被験者の自由意思に基づいて行われなければならない」と決められています。
参加にあたっては、被験者としての適性をいくつかの質問によって行うスクリーニングが行われ、この段階で不適当と認められたなら、モニター参加はできません。
治験の種類によっては、年齢や性別上の制限が入ることもあります。
ちなみに治験の実施医療機関は、厚生労働省規則に定められた要件を満たす病院だけが選ばれています。
治験を実施する病院においては、医師の診察が詳しく行われます。
そして参加可能と判断された場合には、治験参加のメリット・デメリット、当該治験モニターとして受ける制約、動物実験やこれまでの治験で見られた副作用、予想される副作用などについてあらかじめ明示した文書で説明され、被験者のサイン(署名)による事前の同意を得たうえでなければ参加することはできません。
ちなみにこの「実施側の十分な説明」と「被験者の納得と同意」がセットでなされることを、「インフォームド・コンセント(I.C.)」と呼んでいます。
副作用の予防と対策
治験はこのように、人体への投与前に動物実験を経ていること、はじめの投与量を極少にして段階的に変化をみるやり方をとっていること、医師の診察によって適した被験者の選定をきちんと行っていることなどから、被験者の安全性を確保するための最大限の配慮がなされていると言えます。
しかし治験はあくまでも、新薬開発やジェネリックの同等性試験において、人体への影響をみることを目的として行われていることもまた、忘れてはなりません。
副作用を含めたリスクは決してゼロとではなく、きちんと存在していることについては、被験者は副作用の可能性を含めた説明を事前によく聞いたうえ、納得し同意しておく必要があります。
ちなみに「副作用」とは、薬の本来の作用(主作用)以外の作用を指しますが、副作用イコールすべて危険、というわけではありません。
すでに認可済で社会に流通している薬のなかにもなんらかの副作用が起こりうるものもありますし、医療の現場でも、治療上強く主作用を期待する場合には、ある程度の副作用の発生を予見しながらも、安全性に配慮しつつ投与を続ける場合もあります。
治験モニター参加中の検査データや被験者の情報は、もちろん個人情報として、法のもと保護されます。
万一治験の実施中に、被験者が明らかな体調の不調を訴えた場合には、その段階で治験が中止となることもありますし、また被験者の自由意志によって治験ボランティアへの参加中止を決めることもできます。
治験による万一の被害発生に対しては、依頼した製薬企業による補償・賠償の制度も用意されています。
治験モニターはアルバイトにあらず
「治験モニター」や「治験アルバイト」などの名目で、登録料を徴収するサイトもあるようですが、治験はそもそもアルバイトの位置づけをとっていませんし、信頼できるサイトはみな、無料で登録できるようになっているはずです。
治験の協力者が全般に不足している現状からも、募集を行う医療サイドは、できるだけ登録がしやすい状況を整えるようにしているはずです。
なお治験の募集・求人では、「アルバイト」「バイト」という呼び名がオフィシャルに使われることはありません。
治験ボランティア参加にあたって、対価を払って人を集めるという考え方でなく、あくまで治験の募集に自主的に協力してくれた方に対する謝礼であり、治験参加の際に被験者が負担してくれた時間や交通費などの負担を軽減するために支払う「負担軽減費」という考え方(立場)をとっています。
それは、法的に認められている考え方でもあります。
お金はお金、実質的には何も変わらないではないか…という考え方も確かにありますが、かりに時給換算できるアルバイトと考えた場合は、トータルの時間や身体的拘束でみると、人によっては「割にあわない」「生産性が低い」という見方もできるわけです。
治験モニターに参加した時間や日数だけを考えると、確かに一日あたり10,000~20,000円という負担軽減費の額は、魅力的に見えます。
しかし、入院でも通院でも、拘束期間中は完全に自由に活動することはできず、また治験中の正しいデータ測定に支障を生じるという理由から、筋トレなどの運動を行うことも禁じられています。
息抜きのための喫煙や飲酒を行うことなども禁じられますし、日々の推移変化をみるため定期的に病院に通院したり、あるいは日記などで毎日の数値の記録などを求められることもあります。
一度治験に参加した場合は、安全性や身体への影響についての配慮から、次にモニター参加するまでに数ヶ月の間をおくことを求める「待機期間」が設けられています。
かりに二回の治験ボランティアに応募すると考え、この「待機期間」を次のスクリーニングを通過するための制約がある時間として計算に含めてみると、もしアルバイト的な発想で時給換算した場合は、トータルではむしろ割にあわないかもしれません。
被験者の募集も不定期となっていますし、自分の現在の生活スケジュールにあう内容の治験に、タイミングよく参加できるとも限りません。
加えて、過去の治験モニター参加者の情報は、関係医療機関のネットワークでデータベース化されており、参加回数が一定回数以上になった場合などは、たとえ応募しても不適当とみなされ断られることもあるようです。
治験モニターへの参加を考える場合は、自分の身体的・精神面におけるいまの健康状態を踏まえ、またこの先の時間的・身体的な拘束時間がどれくらいになるかもトータルに考え合わせて、参加の有無を決定したいものです。
事前の説明をよく聞いて理解し、自分の現在の状況に適した条件の治験に参加して医師とよく相談しながら進めていくのであれば、治験ボランティアは社会的にも強く参加の意義を見いだせるものと言えるでしょう。
医療・健康に関する参考サイト
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